座右の詩「よろこび」
「……ゆくさきは幾多迫害ありとても、この営みはわが終生の運命なり。しかしてこの営みはわが生命の生きがいにして、わが生命のよろこびなり」
森口さんは、この詩を胸に、この道をまっすぐに歩き続けています。
“スダチの苗木”
森口健司さんは、徳島県内の同和地区に生まれ育ちました。
部落との出会いは中学2年生の頃。思春期の霧の中で、呆然と成すすべもなく立ち尽くすだけだったといいます。
森口さんはふるさとを離れ、京都の大学に進みました。しかし、そこで見たのは日常的に繰り返される差別発言や差別行為であり、差別の現実から逃れることはできませんでした。
その体験をもとに描かれた舞台劇が「スダチの苗木」です(作品中で紹介)。そこには、部落出身を隠し通さねばならない切なさや虚しさ、父親との葛藤が描かれています。
新しい同和教育 ― 全体学習
大学を卒業した森口さんは、意を決してふるさと徳島に戻り、中学校の教壇に立ちました。しかし、そこでも見たのは差別に苦しむ子どもたちの姿でした。
森口さんは、子どもたちの心に響く同和教育を模索し、情熱をもって実践を始めます。そして、クラスの垣根を越えて学年全体で問題を語り合う「全体学習」という、これまでにない新しい人権教育のスタイルを創り上げました。
その実践記録は『峠を越えて』にまとめられ、第46回全同教徳島大会・特別報告として発表されました。
「本音で語り合うことは、自らを晒け出すこと――」
その勇気を見せ合うことで、仲間の輪が広がり、全体学習は子どもたちに大きな安心感を生み出していきました。